公共調達における入札方式の基本
公共調達において、最も一般的な契約方式は「競争入札」です。競争入札には大きく分けて「一般競争入札」と「指名競争入札」の2種類があり、それぞれに特徴があります。
本記事では、両者の違いを法的根拠から実務上の注意点まで、体系的に解説します。
法的根拠
国の契約
会計法(昭和22年法律第35号)第29条の3
契約担当官及び支出負担行為担当官(以下「契約担当官等」という。)は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項及び第四項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。
国の契約では、一般競争入札が原則とされています。
地方自治体の契約
地方自治法(昭和22年法律第67号)第234条
売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。
地方自治体では、一般競争入札と指名競争入札が同列に規定されています。

一般競争入札とは
定義
一般競争入札とは、発注機関が入札情報を公告し、不特定多数の参加希望者を募って行う入札方式です。参加資格を満たす者であれば、誰でも入札に参加できます。
特徴
- 公開性:入札情報が広く公開される
- 競争性:多数の参加者による競争
- 透明性:手続きが明確で公正
- 機会均等:新規参入の機会確保
手続きの流れ
- 入札公告
- 官報、公報、Webサイト等で公告
- 公告期間:原則10日以上(緊急時は5日)
- 参加資格の確認
- 全省庁統一資格または自治体の競争参加資格
- 等級(ランク)の確認
- 地域要件の確認
- 入札説明書の入手
- 仕様書、図面等の確認
- 質問書の提出(必要に応じて)
- 入札書の提出
- 電子入札または紙入札
- 入札保証金の納付(免除の場合が多い)
- 開札・落札者決定
- 予定価格の範囲内で最低価格
- 総合評価方式の場合は評価値が最高
メリット・デメリット
メリット
- 公正性・透明性が高い
- 競争による経済性の確保
- 新規参入の機会
- 談合防止効果
デメリット
- 手続きに時間がかかる
- 事務負担が大きい
- 不良・不適格業者の参入リスク
- 過度な価格競争の可能性
指名競争入札とは
定義
指名競争入札とは、発注機関があらかじめ特定の業者を指名して、その指名された業者のみで行う入札方式です。
特徴
- 限定性:参加者が限定される
- 効率性:手続きが簡素
- 信頼性:実績のある業者を選定
- 迅速性:短期間で契約可能
手続きの流れ
- 指名業者の選定
- 指名基準に基づく選定
- 通常5~10者程度を指名
- 指名審査委員会での審議
- 指名通知
- 指名された業者に通知
- 入札説明書の配布
- 入札書の提出
- 指名業者のみが参加
- 辞退も可能
- 開札・落札者決定
- 一般競争入札と同様の方法
指名基準
地方自治法施行令第167条に基づく主な指名基準:
- 不誠実な行為の有無
- 経営状況
- 工事成績
- 技術的能力
- 手持ち工事の状況
- 地理的条件
メリット・デメリット
メリット
- 信頼できる業者を選定可能
- 手続きが簡素で迅速
- 品質確保が容易
- 地元企業の育成
デメリット
- 競争性の低下
- 新規参入が困難
- 談合のリスク
- 指名の恣意性の懸念

両方式の比較表
項目 | 一般競争入札 | 指名競争入札 |
---|---|---|
参加者 | 不特定多数 | 指名された者のみ |
公告 | 必要 | 不要 |
参加機会 | 広く開放 | 限定的 |
手続期間 | 長い(10日以上) | 短い |
競争性 | 高い | 限定的 |
透明性 | 高い | やや低い |
品質確保 | 参加資格で担保 | 指名で担保 |
事務負担 | 大きい | 小さい |
新規参入 | 可能 | 困難 |
主な用途 | 大規模・重要案件 | 中小規模・緊急案件 |
入札方式の選択基準
一般競争入札を選択すべき場合
- 大規模工事(WTO政府調達協定対象)
- 透明性が特に求められる案件
- 多数の参加者が見込まれる案件
- 新技術・新工法を求める案件
指名競争入札を選択できる場合
地方自治法施行令第167条により、以下の場合に限定:
- 契約の性質・目的により競争に加わる者が少数
- 一般競争入札に付することが不利
- 不誠実な者を排除する必要
- 特殊な技術を要する場合
実務上の注意点
一般競争入札での注意点
- 参加資格の確認
- 必要な等級の確認
- 地域要件の確認
- 実績要件の準備
- 公告の見逃し防止
- 定期的な情報収集
- 電子調達システムの活用
- 業界団体からの情報
- 積算の精度向上
- 競争が激しいため精度が重要
- 最低制限価格の推定
指名競争入札での注意点
- 指名獲得の努力
- 良好な工事成績の維持
- 地域貢献活動
- 発注者との適切な関係構築
- 辞退の判断
- 無理な受注は避ける
- 辞退理由の明確化
- 今後の指名への影響考慮
- 談合防止
- コンプライアンスの徹底
- 独占禁止法の遵守
最近の動向
一般競争入札の拡大
背景:
- 公共調達の透明性向上要請
- 談合防止の強化
- WTO政府調達協定の影響
現状:
- 国:ほぼ100%が一般競争入札
- 都道府県:約90%以上
- 市町村:徐々に拡大中
地域要件の活用
一般競争入札でも、地域経済への配慮から地域要件を設定:
- 本店所在地要件
- 営業所設置要件
- 災害協定締結要件
総合評価方式の普及
価格だけでなく、技術力も評価:
- 施工計画の評価
- 企業の施工実績
- 配置予定技術者の能力
- 地域貢献度

参加戦略
一般競争入札への参加戦略
- 情報収集の強化
- 発注見通しの確認
- 過去の入札結果分析
- 競合他社の動向把握
- 差別化要素の構築
- 技術提案力の向上
- 施工実績の蓄積
- 技術者の育成
- 効率的な応札
- 得意分野への集中
- 勝算のある案件の選別
- 適正な利益確保
指名獲得のための戦略
- 実績づくり
- 小規模工事から着実に
- 工事成績評定の向上
- 無事故・無災害の達成
- 地域との関係構築
- 災害協定への参加
- 地域行事への協力
- 地元雇用の推進
- 技術力のアピール
- 資格取得の推進
- 新技術の導入
- 研修・教育の充実
まとめ
一般競争入札と指名競争入札は、それぞれに特徴があり、案件の性質により使い分けられています。
重要なポイント:
- 法的位置づけ:国は一般競争が原則、地方は選択可能
- 透明性vs効率性:一般競争は透明、指名は効率的
- 参加機会:一般競争は開放的、指名は限定的
- 今後の方向性:一般競争入札が主流へ
どちらの方式でも、適正な競争と品質確保のバランスが重要です。発注者・受注者双方が制度を正しく理解し、適切に運用することで、公共調達の健全な発展につながります。
参考資料
※本記事は2024年7月時点の法令・制度に基づいています。最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。