入札不調・不落とは
公共工事や物品調達の入札において、様々な理由により落札者が決まらないことがあります。これらは「入札不調」「入札不落」と呼ばれ、発注者・受注者双方にとって大きな課題となっています。
本記事では、両者の違いを明確にし、原因分析から具体的な対処法まで、実務に役立つ情報を解説します。
入札不調と不落の違い
入札不調(応札者なし)
定義:入札公告を行ったものの、入札に参加する事業者が一者もいない状態
特徴:
- 応札者数:0者
- 開札の実施:なし(参加者がいないため)
- 主な要因:参加意欲の低下、参加資格の問題
入札不落(予定価格超過)
定義:入札参加者はいたものの、全ての入札価格が予定価格を超過し、落札者が決まらない状態
特徴:
- 応札者数:1者以上
- 開札の実施:あり
- 主な要因:予定価格と市場価格の乖離

入札不調と不落は、結果は同じ「落札者なし」でも、原因が全く異なります。不調は「参加者がいない」、不落は「価格が合わない」という問題です。それぞれ対策も変わってきます。
発生状況と傾向
統計データ
国土交通省の調査によると(2019年アンケート):
- 都道府県の不調・不落発生率は2018年度まで3年連続で上昇
- 特に災害復旧工事で高い発生率
- 建築工事、維持修繕工事での発生が顕著
最近の傾向(2024年現在)
- 建設資材の高騰による予算との乖離
- 技術者不足による応札者の減少
- 働き方改革に伴う工期設定の課題
- 災害復旧工事の集中による供給不足
入札不調の原因と対策
主な原因
1. 参加資格要件の問題
- 過度に厳しい参加資格
- 地域要件の狭さ
- 実績要件のハードルの高さ
2. 工事内容の問題
- 施工難易度が高い
- 工期が厳しい
- 現場条件が悪い
3. 発注時期の問題
- 繁忙期の発注
- 年度末の集中
- 災害復旧との重複
対策
発注者側の対策
- 参加資格の見直し
- 地域要件の拡大
- 実績要件の緩和
- 等級区分の拡大
- 発注方法の工夫
- 分離分割発注の検討
- 工期の適正化
- 施工時期の平準化
- 情報提供の充実
- 詳細な現場説明会
- 質問回答の充実
- 早期の発注見通し公表
受注者側の対応
- 情報収集の強化
- 発注見通しの確認
- 現場条件の事前調査
- 競合状況の分析
- 体制整備
- 技術者の確保
- 協力業者との連携
- 施工能力の向上

入札不調を防ぐには、発注者と受注者の双方の努力が必要です。特に地方の小規模工事では、地元業者の参加意欲を高める工夫が重要になります。
入札不落の原因と対策
主な原因
1. 予定価格の問題
- 市場価格との乖離
- 積算基準の古さ
- 地域特性の未反映
2. コスト増加要因
- 資材価格の高騰
- 労務費の上昇
- 安全対策費の増加
3. リスク要因
- 工期遅延リスク
- 設計変更リスク
- 現場条件の不確実性
対策
発注者側の対策
- 積算の適正化
- 最新単価の適用
- 見積活用方式の採用
- 現場条件の適切な反映
- 契約条件の改善
- スライド条項の明確化
- 設計変更の柔軟対応
- リスク分担の明確化
- 発注方式の見直し
- 総合評価方式の活用
- 技術提案型の採用
- 交渉方式の検討
受注者側の対応
- 積算精度の向上
- 詳細な現場調査
- 実勢価格の把握
- リスク評価の徹底
- コスト削減努力
- 施工方法の工夫
- 資材調達の効率化
- 協力業者との連携
不調・不落発生後の対処法
1. 再度公告入札
手続き:
- 公告期間:通常10日→5日に短縮可能
- 参加資格等の条件緩和を検討
- 予定価格の見直し(不落の場合)
メリット:
- 競争性の確保
- 透明性の維持
- 新規参加者の可能性
デメリット:
- 時間がかかる
- 再度不調・不落のリスク
2. 不落随意契約
法的根拠:
- 会計法第29条の3第4項
- 予算決算及び会計令第99条の2
- 地方自治法施行令第167条の2第1項第8号
適用条件:
- 再度入札を行っても落札者がいない
- 改めて入札に付すことが不利
- 予定価格の制限内での契約
手続きの流れ:
- 再度入札(通常3回まで)
- 全員が予定価格超過で不落
- 最低価格提示者と交渉
- 予定価格内で合意すれば契約
注意点:
- 予定価格は変更不可
- 当初の仕様・条件は維持
- 交渉経過の記録が必要
3. 設計・仕様の見直し
見直しのポイント:
- 仕様のグレード調整
- 数量の見直し
- 工期の延長
- 施工条件の緩和
手続き:
- 設計変更の承認
- 予算の再配分
- 改めて入札公告

不落随意契約は緊急避難的な措置です。安易に頼らず、まずは不調・不落の原因を分析し、根本的な解決を図ることが重要です。
災害時等の特例措置
災害復旧工事の場合
国土交通省「災害復旧における入札契約方式の適用ガイドライン」により、以下の特例が認められています:
- 随意契約の活用
- 緊急性の高い応急復旧
- 工事規模による適用
- 指名競争入札の活用
- 迅速な契約が必要な本復旧
- 地域精通度の重視
- 前払金の特例
- 通常40%→50%まで引き上げ
- 中間前払金の活用
緊急時の対応
優先順位:
- 人命救助・安全確保(随意契約)
- ライフライン復旧(指名競争)
- 本格復旧(一般競争)
予防策と改善提案
発注者向けの予防策
- 発注計画の最適化
- 施工時期の平準化
- 適正な工期設定
- 早期発注の推進
- 積算の精度向上
- 見積活用の拡大
- 実勢価格の調査
- 地域特性の反映
- 参加促進策
- 手続きの簡素化
- 電子入札の推進
- 情報提供の充実
受注者向けの対策
- 経営体質の強化
- 技術者の育成
- 財務基盤の強化
- 施工能力の向上
- 情報収集力の向上
- 発注見通しの活用
- 市場動向の把握
- 技術情報の収集
- リスク管理
- 適正な利益確保
- 選別受注の徹底
- 協力体制の構築
今後の展望
制度改革の動向
- 多様な入札契約方式
- 技術提案・交渉方式
- 段階的選抜方式
- ECI方式の活用
- デジタル化の推進
- AI活用による積算
- BIM/CIMの活用
- 電子契約の拡大
- 働き方改革への対応
- 週休2日の確保
- 適正な工期設定
- 労働環境の改善
業界の課題
- 担い手確保
- 若手技術者の育成
- 処遇改善
- 魅力ある職場づくり
- 生産性向上
- ICT施工の推進
- 省力化技術の開発
- 効率的な施工管理
まとめ
入札不調・不落は、建設業界が抱える構造的な課題を反映した現象です。単なる一時的な対処ではなく、発注者・受注者が協力して根本的な解決を図る必要があります。
重要なポイント:
- 原因の正確な把握:不調か不落かで対策が異なる
- 予防的取組:事後対応より予防が効果的
- 制度の適切な活用:不落随契は最終手段
- 継続的な改善:PDCAサイクルの実施
適切な対策により、公共調達の円滑な実施と建設業の健全な発展の両立を目指しましょう。
参考資料
※本記事は2024年6月時点の情報に基づいています。最新の制度・運用については各機関の公式サイトでご確認ください。