はじめに:補助金と入札の相乗効果で事業を加速させる

中小企業の経営者が常に頭を悩ませるのが、「資金調達」と「販路開拓」という2つの大きな課題です。特に、新たな事業展開や設備投資を考える際、自己資金だけでは限界があり、かといって融資には高いハードルを感じることも少なくありません。一方で、安定した収益源を確保するためには、継続的な取引が見込める優良な販路を開拓する必要があります。

もし、この2つの課題を同時に解決に導く戦略があるとしたら、どうでしょうか?

それが、本記事で提案する「補助金活用型入札戦略」です。これは、国や自治体が提供する「補助金」と、公共機関が発注する「入札(公共調達)」を戦略的に組み合わせることで、事業成長の強力なエンジンを生み出す手法です。

具体的には、以下の2つのアプローチを軸とします。

  1. 事業計画書への入札案件組み込み:補助金を申請する際の事業計画書に、国の仕事や自治体の仕事(入札案件)の受注を収益計画として盛り込むことで、計画の実現可能性と信頼性を劇的に高めます。
  2. 設備投資補助金の活用:ものづくり補助金などを活用してドローンなどの高額な設備を導入し、それを武器にこれまで参入が難しかった専門的な官公庁案件の受注を目指します。

この戦略は、単に資金を得る、仕事を獲得するという短期的な視点にとどまりません。補助金によって企業の体力を強化し、その力で安定した公共調達市場に参入し、そこで得た収益と実績を元にさらに事業を拡大していく、という持続的な成長サイクルを創出することを目的としています。

本記事では、この「補助金活用型入札戦略」の具体的な考え方から、実際の補助金制度の紹介、ドローン関連の入札案件事例、そして明日から実践できるロードマップまで、詳細に解説していきます。資金調達と販路開拓に悩むすべての中小企業経営者にとって、新たな突破口となる情報がここにはあります。

なぜ事業計画書に入札案件を盛り込むべきなのか?

補助金の申請において、その採否を分ける最も重要な要素が「事業計画書」であることは、多くの経営者が認識しているでしょう。しかし、その事業計画書の「信頼性」をいかにして高めるかという点については、具体的な手法を見出せていないケースが少なくありません。ここで鍵となるのが、「入札案件」の戦略的な活用です。

補助金採択の鍵は「実現可能性の高い事業計画書」

補助金の審査官が事業計画書を評価する際、最も重視するポイントの一つが「収益計画の実現可能性」です。どんなに革新的なアイデアや素晴らしい技術力を持っていても、それがどのようにして具体的な売上や利益に結びつくのか、その道筋が明確でなければ、補助金を交付するに値する事業とは判断されにくいのです。

多くの事業計画書では、市場調査データや競合分析を基に「〇〇市場でシェア〇%を獲得し、売上〇〇円を目指す」といった目標が掲げられます。しかし、その目標達成の根拠が曖昧であったり、希望的観測に基づいていると見なされたりすれば、審査官に「本当にこの計画は達成できるのか?」という疑念を抱かせてしまいます。

そこで、事業計画の信頼性を飛躍的に高める武器となるのが、国の仕事・自治体の仕事、すなわち「入札案件」です。

国の仕事・自治体の仕事がもたらす安定収益

公共調達は、国や地方公共団体、独立行政法人などが業務を発注する巨大な市場です。その最大の魅力は、取引の安定性と継続性にあります。一度落札し、誠実に業務を遂行すれば、継続的な受注につながる可能性が高く、民間企業との取引に比べて代金の未払いリスクも極めて低いというメリットがあります。

この「安定した収益源」を事業計画書に組み込むことで、収益計画は単なる「目標」から、「確度の高い見込み」へと昇華します。

例えば、以下のように事業計画書に記述することができます。

「当社の主力事業である〇〇の販路として、新たに公共調達市場に参入する。既に〇〇市が発注する類似案件(年間予算〇〇円)が存在することを確認しており、当社の技術力と価格競争力をもってすれば、初年度で〇件、〇〇円の受注を見込んでいる。これは、本補助金で導入する新設備〇〇を活用することで、より高品質なサービスを低コストで提供可能となるためである。3年後には、近隣の〇〇市、〇〇町にも展開し、公共調達分野だけで年間〇〇円の安定収益を確保する計画である。」

このように、具体的な入札案件名や予算規模、自社の競争優位性を盛り込むことで、収益計画は一気に具体性と説得力を増します。審査官は、「この会社は、補助金を活用して何をするかが明確であり、その後の収益化の道筋もしっかりと描けている」と評価し、採択の可能性は大きく高まるのです。

事業計画書作成の具体例

項目記述内容ポイント
事業の背景・目的既存事業の課題と、補助金活用による公共調達市場への参入という新たな展開を記述。なぜ今、入札に取り組む必要があるのかを明確にする。
市場の動向参入を目指す公共調達市場の規模、関連する入札案件の年間発注数や予算規模をデータで示す。NJSSやnSearchなどの情報サービスを活用し、客観的なデータを示す。
自社の強み価格競争力、技術力、専門性、過去の実績など、入札で勝てる根拠を具体的にアピール。補助金で導入する設備が、どのように競争優位性につながるかを論理的に説明する。
収益計画具体的な入札案件名を挙げ、落札目標件数、単価、予想売上高を3~5年分シミュレーションする。希望的観測ではなく、過去の落札価格などを参考に、現実的な数値を設定する。
実施体制・スケジュール補助金採択後の設備導入、入札参加資格の取得、提案書作成、納品までの具体的なスケジュールと担当者を明記。計画の実行可能性を裏付ける。

このように、事業計画書のあらゆる項目に「入札」という視点を組み込むことで、計画全体が強固なものとなり、補助金採択へと大きく近づくことができるのです。

ドローン等の大型設備投資と官公庁案件参入戦略

補助金活用型入札戦略のもう一つの柱が、「設備投資を起点とした専門的な官公庁案件への参入」です。特に、ドローンや3Dプリンター、高度な分析機器といった高額な設備は、中小企業が自己資金だけで導入するにはハードルが高いものですが、補助金を活用することでその壁を乗り越えることが可能になります。そして、その最新設備こそが、これまで参入できなかった専門的な国の仕事・自治体の仕事への扉を開く鍵となるのです。

ものづくり補助金等を活用した設備投資

中小企業の設備投資を支援する代表的な補助金として「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)」が挙げられます。この補助金は、革新的な製品・サービスの開発や生産プロセスの改善に必要な設備投資などを支援するもので、補助上限額も大きく、中小企業の競争力強化に大きく貢献します。

ものづくり補助金の概要(例)

補助上限額補助率
通常枠750万円~1,250万円1/2(小規模・再生事業者は2/3)
回復型賃上げ・雇用拡大枠1,250万円2/3
デジタル枠1,250万円2/3
グリーン枠1,250万円~4,000万円2/3

※上記は一般的な例であり、公募回によって内容が変更される場合があります。必ず公式情報をご確認ください。

例えば、1,200万円の最新型ドローンを導入する場合、ものづくり補助金(デジタル枠、補助率2/3)を活用すれば、800万円の補助が受けられ、自己負担は400万円で済みます。このように、補助金を活用することで、通常では困難な高額な設備投資が現実的なものとなります。

設備投資が拓く官公庁案件への道

最新の設備を導入することは、単に生産性が向上するだけでなく、新たな市場、特に専門性が求められる公共調達市場への参入を可能にします。

近年、国や自治体では、インフラの老朽化対策、防災・減災、環境調査、測量など、様々な分野でドローンをはじめとする先端技術の活用が急速に進んでいます。しかし、行政機関が自前で高額な機材を全て揃え、専門人材を育成・維持し続けるのは非効率です。そのため、これらの業務を民間の専門業者に委託する「入札案件」が急増しているのです。

ドローンを活用した官公庁案件の例

  • インフラ点検: 橋梁、トンネル、ダム、送電線などの点検・調査
  • 測量・調査: 地形測量、工事進捗管理、災害状況調査
  • 防災・減災: 災害時の被災状況把握、捜索・救助支援、火山監視
  • 農林水産業: 農薬散布、生育状況調査、鳥獣害対策、赤潮監視
  • 環境調査: 不法投棄監視、水質調査、生態系調査

これらの案件は、専門的な機材(ドローン、レーザー測量機など)と高度な操縦・解析技術が不可欠であるため、参入障壁が高く、価格競争に陥りにくいという特徴があります。つまり、補助金を活用して他社に先駆けて設備を導入し、技術を磨くことで、競争の少ない有望な市場で安定した収益を上げることが可能になるのです。

実際の入札案件と求められる設備

入札情報サービス「nSearch」で「ドローン」と検索すると、実に4,000件以上の案件がヒットします(2025年8月時点)。これは、ドローン関連の業務が全国のあらゆる自治体や機関で恒常的に発注されていることの証左です。

nSearchで見るドローン関連入札案件の事例

案件名発注機関入札方式落札金額
令和7年度無人航空機(ドローン)を用いた業務処理に係る調査委託業務大分県警察本部一般競争入札-
水面ドローンによるダム堆砂の計測業務農業・食品産業技術総合研究機構オープンカウンター-
ドローン等の購入神奈川県自然環境保全センターオープンカウンター-
農作物生育状況調査(ドローン空撮)業務委託佐賀県農林水産部一般競争入札2,548,896円
ドローン操作講習業務委託三重県オープンカウンター344,000円

これらの案件は、機材の購入から調査・点検業務、さらには操作講習まで多岐にわたります。特に、250万円を超えるような業務委託案件は、補助金を活用して高機能なドローンと解析ソフトを導入した企業にとって、まさに格好のターゲットと言えるでしょう。

補助金で「武器」を手に入れ、その武器でなければ戦えない「戦場(=専門的な入札案件)」に挑む。これこそが、中小企業が持続的な成長を遂げるための、極めて有効な戦略なのです。

補助金活用入札戦略の実践ロードマップ

これまで解説してきた「補助金活用型入札戦略」を、具体的にどのように進めていけばよいのか。ここでは、明日から実践できる4つのステップに分けたロードマップを提示します。

Step 1: 自社に合った補助金制度の選定

まずは、自社の事業内容や投資計画に合致する補助金を見つけることから始めます。補助金には様々な種類があり、それぞれ目的、対象者、対象経費が異なります。

  • ものづくり補助金: ドローン、3Dプリンター、製造装置など、革新的な製品・サービス開発のための設備投資に最適です。
  • IT導入補助金: 会計ソフト、受発注システム、決済ソフトなど、業務効率化のためのITツール導入に活用できます。入札案件の管理や積算、提案書作成の効率化にも繋がります。
  • 小規模事業者持続化補助金: ホームページの作成・改修、チラシ作成、店舗改装など、販路開拓や生産性向上のための小規模な投資に利用できます。官公庁向けの営業資料作成などにも活用可能です。
  • 事業再構築補助金: 新分野展開や事業転換など、思い切った事業再構築を支援する大型の補助金です。既存事業から公共調達事業へ本格的にシフトする場合などに有効です。

これらの補助金の公募要領を熟読し、自社の計画がどの補助金の趣旨に合致するかを慎重に検討しましょう。

Step 2: 参入可能な入札案件のリストアップ

次に、補助金で導入する設備やITツールを活かせる入札案件を具体的にリストアップします。NJSSやnSearchといった入札情報サービスを活用し、自社の事業領域や所在地に関連するキーワード(例:「ドローン 測量」「〇〇市 広報誌 作成」)で検索します。

案件をリストアップする際のポイント

  • 自社の強みが活かせるか: 価格、技術、実績、地域性など、他社との差別化要因を考える。
  • 仕様書の内容: 求められる成果物のレベル、納期、参加資格などを確認する。
  • 過去の落札価格: 過去の類似案件の落札価格を調べ、自社の価格設定の参考に。
  • 継続性: 単発の案件か、継続的な発注が見込める分野かを見極める。

この段階で、具体的ないくつかの案件をピックアップし、事業計画書に盛り込むための材料とします。

Step 3: 事業計画書の作成と補助金申請

Step1とStep2で得た情報を基に、事業計画書を作成します。前述の通り、「入札案件の受注」を収益計画の柱として具体的に記述することが重要です。

  • 収益計画: 「〇〇市の入札案件(年間予算〇〇円)に対し、本補助金で導入するドローンを活用することで、〇%の確率で落札可能。初年度〇件、売上〇〇円を見込む」といった具体的な記述を心がけます。
  • 専門家の活用: 事業計画書の作成に不安がある場合は、中小企業診断士や行政書士といった専門家の支援を受けることも有効です。彼らは補助金申請のノウハウを持っており、採択率を高めるための的確なアドバイスを提供してくれます。

完成した事業計画書を、公募期間内に電子申請システム等を通じて提出します。

Step 4: 補助金採択後の設備導入と入札参加

無事に補助金が採択されたら、計画に従って速やかに設備を導入し、入札に参加するための準備を進めます。

  • 設備導入: 補助金の交付決定後、計画していた設備やITツールを発注・導入します。
  • 入札参加資格の取得: 多くの入札に参加するためには、「全省庁統一資格」や各自治体の入札参加資格が必要です。必要な手続きを確認し、早めに申請を済ませましょう。
  • 実績作り: まずは小規模な案件や、落札の可能性が高い案件から挑戦し、着実に実績を積み上げていくことが重要です。一つの実績が、次のより大きな案件への信頼につながります。

この4つのステップをサイクルとして回していくことで、企業は継続的に成長していくことができます。

まとめ:補助金と入札の両輪で、持続的な成長を目指す

本記事では、補助金と入札を戦略的に組み合わせる「補助金活用型入札戦略」について解説してきました。

この戦略の核心は、補助金で得た資金や設備という「追い風」を、公共調達という安定した「航路」に乗せることで、事業という船を一気に加速させる点にあります。

  • 事業計画書に入札案件を盛り込むことで、補助金の採択率を高め、
  • 補助金で導入した設備を武器に、専門的な入札案件で競争優位性を築く。

この両輪を回すことで、中小企業は資金調達と販路開拓の課題を同時に克服し、持続的な成長軌道に乗ることが可能になります。

国の仕事、自治体の仕事は、決して遠い存在ではありません。むしろ、地域に根差し、特定の技術やサービスに強みを持つ中小企業こそが、その担い手として期待されています。この記事を参考に、ぜひ補助金と入札という強力なツールを手に入れ、新たな事業の扉を開いてください。


参考情報

動画で学ぶ

入札の基本を分かりやすく動画で解説しています。初心者の方にもおすすめです。

約16分 初心者向け
今すぐ動画を見る

入札参加資格でお困りですか?

行政書士が申請から取得まで完全サポート。まずは無料相談でお気軽にご相談ください。

無料相談を申し込む